休暇 (2007)
»レビュー
アリの命と人の命
2008/06/14
by
のびた
死刑という制度があれば、必ずそれをとりおこなうために、そこで働いている人間がいる。いつのまにか執り行われる死刑執行の陰にも、人間として温かい感情を持った人々が携わらなければならない。そんな人の死に関わる人間のストレスたるや、僕などには想像もつかない過酷なものだろう。
死刑囚の床を落とすボタンを、誰が押したかわからないように、三人同時で押して、その精神的負担を出来るだけ軽減しようとしている。刑に立ち会った職員は、休みを一日多く取ったり、「支え役」には一週間の休暇が与えられる。
この映画では、バツイチの美香とその子供を旅行に連れていくため、平井が絞死刑の時、下に落ちてきた身体を支える「支え役」を申し出る。この家族の旅行の様子と、死刑執行までの刑務官の日常や、平井の結婚までの話が交錯して描かれていく。
息が詰まりそうなほどの、“間”を取った演出。大袈裟にしない、押さえられた演技。淡々とした描写。この作風は万人受けするものではないだろう。
死刑制度に異議を唱える内容ではなく、現にある事実として、そこに携わる人々の苦悩を浮き彫りにしている。
主人公の平井を小林薫が好演している。『歓喜の歌』のあのいい加減な職員からは想像もつかないほどの真面目過ぎるおとなしい男だ。今年は彼に男優賞をあげたいくらいだ。その職務に忠実な姿と、結婚して人前の幸せを掴みたいと願う気持ち。しかし、仕事の内容が彼の心を重く沈みこませてしまう。
一方、死刑囚・金田を演じた西島秀俊も、難しい役を淡々とこなしている。普段は死刑囚と思えぬほどおとなしく絵を描いている。何をして死刑判決を受けたか、具体的な説明はないが、部屋の片隅にいたあの二つの人影から、誰を殺したのか大体想像はつく。音楽を聴きたいと言った後に、それを否定したり、本をこっそり切り抜いていたりしている。
彼の心の闇は暗く深く、計り知れないものがあって、静かなだけにかえって怖い。妹との対面シーンはもう限界かと思う位に間をとった。これだけ長い“間”も珍しい。
軽率な行動を取る新人刑務官(柏原収史)や、常に思いつめているベテラン刑務官、人望の厚い刑務官(大杉漣)など、脇のキャラもいい。
平井と結婚する美香を演じた大塚寧々とその子供と、平井との距離が徐々に近くなっていく様子が、この作品の救いでもある。
何度か出てくる、床や畳を這うアリ。
この小さな生命で、監督は何を観客に伝えようとしたのだろうか…。
7人がこのレビューに共感したと評価しています。
※ユーザー登録すると、レビューを評価できるようになります。
返信を投稿
Copyright©2008 USEN GROUP All Rights Reserved.






