蜘蛛巣城 (1957) »レビュー

人間の妄執を表現した黒塗りの城

100点 2008/09/05 by 牧坂満

 「蜘蛛巣城」の原作にあたる、シェークスピア劇の「マクベス」は、その器でない人物がTOPについたことによる悲劇だと思います。マクベス夫人も同じですが、頂点に君臨する人間としては強靭な精神力が足りないが故に悲劇的結末に終わってしまうのです。

 黒澤明監督は「蜘蛛巣城」までは、大戦後の混沌とした日本社会への思想的メッセージを込めて描いてきましたが、本作品では美学に重点を置いて、技巧を駆使して、流麗な映像で美しい映画を完成させています。その礎となっているのが、神秘的な雰囲気を醸し出すことの成功要因となった“能”の様式美です。

 「蜘蛛巣城」城内の開かずの間は、先代の城主が暗殺された現場という設定ですが、凄味の中に神秘的な美しさを感じさせる、無垢材の板だけで内装している部屋は、古式蒼然とした“能”の舞台を彷彿とさせるのです。マクベス夫人にあたる山田五十鈴が絹擦れの音をさせながら歩いたり、うつむき加減で会話するのも“能”の技法ですが、非業の死を遂げた武将たちの衣装までもが、全員、二番目修羅能の後シテと同様に“法被・半切”を身に着けていることにあります。

 御存知のように、黒沢明作品では、照り付けるような太陽や豪雨、暴風、豪雪などの自然現象を使用して劇的な力強さを盛り上げてきましたが、中世ヨーロッパの強烈なエゴを持った人間を描くためには大いに成功したのではないでしょうか。シェークスピア戯曲を題材にしながらも、日本の古典芸能や古武道、芸術を混合させた手腕も見事です。私が初めてこの映画を観たのは、小学校入学前に両親に連れられてでしたが、「蜘蛛巣城の御城主様!」と何者かに憑依されたように事あるごとに喋っていたそうです。

 【劇場名不詳】劇場観賞
 【国立近代フィルムセンター】劇場観賞
 【NHK衛星第二放送】鑑賞

 

 

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